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  今回は、メキシコの教師会の日本語教育シンポジウムで3度講演をしていただいた市川保子先生にお話を伺います。『初級日本語文法と教え方のポイント』という日本語教師の参考書をご存じの方も多いのではないかと思いますが、市川先生はその著者でもあります。

 

-市川先生は外国人に日本語を教えられて長いと聞いていますが、日本語教育に入られたきっかけをお聞かせください。

  もう4,50年前になりますが、その頃は大学の、特に女子学生が就職先を見つけるのは難しい状況でした。私も4年生の3月まで仕事が見つからなくて、どうしようかと思っていたんですが、ある日、大学の就職コーナーに日本語講師募集の「ちらし」が貼ってあったのです。その時は日本語講師というのは何をする仕事か分からなかったのですが、ともかく応募してみました。
  そこは海外の技術研修生に技術研修前のトレーニングをするところで、そのトレーニングの中に日本語教育があったのです。そこで初めて日本語を教えるということを知り、いろいろの研修や訓練を受けて日本語の先生になっていきました。

 

先生の日本語教育におけるご専門は何ですか。

  文法です。初めて日本語教育に携わった時、指導をしてくださった先生のお1人が寺村秀夫先生でした。寺村先生は日本語学と日本語教育両方に視点を置いて、文法を中心に据えながら、広い視野から考えておられました。先生の影響を受けて、私は、文法をどのように分かりやすく、日本語教育に生かしていくかというところに興味を持ちました。
  私が文法のおもしろさに興味を持ったもう一つは、「は」と「が」でした。当時日本で流行ったアダモのシャンソンに「雪が降る」という歌がありました。タイトルは「雪が降る」なのに、歌詞は「雪は降る あなたは来ない」で始まるのです。「雪が降る」と「雪は降る」はどう違うのか、「が」と「は」はどこが異なるのかということに興味を持ちました。

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日本語教育で文法の重要性は何でしょうか。

  やっぱり積み上げということだと思います。どの言語の勉強でも同じだと思いますが、例えば、ドラマやニュースを聞いて、本当に聞き取ることのできるのは、「自分が何度も習って、繰り返して、書いたり覚えたりして身に付けていること」だけなんです。身に付いていないことは聞き取れないんです。
  それは話すことでも同じで、すらすらと話せるのは、やはり「自分が今までに何度も聞いたり、読んだり、書いたりして、何度も何度も練習した事柄」なんです。ある日突然、聞くことができたり、話すことができるということはありません。繰り返し繰り返し、自分が身に付けたことが、実際に使えることなのです。
  繰り返しや積み上げというのは、時間がかかっても、一番手っ取り早く、確実な日本語の勉強方法になります。
  昔から「話す・聞く・書く・読む」というのがありますね。私は最近また英語の勉強に取り組み始めたのですが、この4つが絡み合って、ことばの力というものは伸びていくのだということを痛感しています。話す力は、書いたり、読んだり、聞いたりすることによって裏付けされるものなのですね。私達は話しながら、この単語は「読み物」で出てきたなあ、この文の形は「聞き取り」で聞いたなあなどと思い出しているのです。それらがお互いに補い合いながら、話す力や聞く力を育て上げているのです。

 

では、実際の毎日の授業はどうやっていけばいいのでしょうか。

  学習者の中には、話すことに興味のある人もいるし、読むことに興味のある人もいると思います。期間によって、また、課によって、重点を変えながら、でも、「話す・聞く・読む・書く」をバランスよくとっていくことが重要ではないでしょうか。例えば、この課は「聞くこと」に力を入れる、そして、聞き取りに時間をかけながら、でもやはり、読み・書き・話しも入れていく。もちろん、積み上げ練習も忘れないように。
  理想的には一つの課に同じテーマで4つの技能教材が盛り込まれているのがいいのですが。
  それから、学習者に考えさせることも重要ですね。学習者が中心になって、学習者に積極的に発表させたり、意見を言わせたり、考えさせる、そういうことが大切でしょうね。先生のためのクラスではなく、学習者のためのクラス・授業なのだという意識を育てることが重要ですね。
  授業計画(少し詳しいシラバス)を、できる範囲でいいので、作ってください。そこにコースの流れ、特色、強弱、緩急を描いていってください。そして、どんな小さなことで もいいので、一つ新しい試みを入れてみてください。それが積み上がって、よい授業への一歩になると思います。

 

先生、いろいろなアドバイス、ありがとうございました。

 

  市川先生は、国際交流基金教育通信「文法を楽しく」を担当していらっしゃいます。
  https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/tsushin/grammar/201512.html もあわせてご覧ください。

 

インタビュアー:直井恵理子(北部コーディネーター)